カーフキック。Calf Kickです。最近、格闘技界でのトレンドワード、ブームとなっているフレーズですね。ふくらはぎの部位を蹴るからカーフキックです。ふくらはぎで蹴るのではありません。
2020年12月31日にさいたまスーパアリーナで開催された格闘技大会『RIZIN26』で一躍脚光を浴びたこのカーフキック。実は、そのイマジネーションは結構昔からあったんですよ。
今回はそういうお話です。そして防御するには、ということについても考えてみたいと思います。格闘技ファン必読!
[the_ad id=”243″]カーフキックという技術を解剖してみる
大晦日の朝倉海 vs 堀口恭司戦、スダリオ剛 vs ミノワマン戦でいきなり出てきた感のあるこのカーフキック。まずは実際の映像をご覧頂きましょう。
動画の2:53頃に出てくるのがカーフキックです。蹴り方はシンプル。堀口恭司選手が右脚で蹴り、朝倉海選手の左脚ふくらはぎを攻撃しています。試合中に5発ほどこのカーフキックが朝倉海選手に叩き込まれ、最後は立つことができなくなりレフェリーストップで試合終了。TKOで堀口恭司選手の勝ち。
20年以上プロレス、総合格闘技を観続けている私ですが、意外にもふくらはぎをローキックで蹴るというムーブは全く認識しておりませんでした。
これを観た時、あっけに取られてしまったというか、えっ、なんなのこれ??って感じでしたね。朝倉海選手の足が折れてしまったんじゃないか、と思いました。立てなくなるくらいのダメージなので。なにか、マジック、神がかりな瞬間でしたね。普通に蹴ってるのに、朝倉海選手も痛そうじゃないのに、でも左足を出そうとするとなぜか動かせず、よろめいてしまう。と。
カーフキックの効果は、防御に失敗したら立てなくなること。痛いことより、立てないこと。これに尽きます。なんだろう、こんなに効くなら禁止される可能性も出てきますよね。選手の脚が壊れるから危ないだろっていう声も散見されます。まあ、それを言ったら危ない技なんてまだまだありますからねえ。
https://twitter.com/GoDk9SAMvC5SeNK/status/1346294902385086464
あと、なんでカット、防御しないのかな、とも思いました。なんでできないんだろう。吸い込まれるように堀口恭司選手の蹴りが入ってますので、それがすごく不思議でした。
普通、ローキックは太腿を狙います。しかしカーフキックはふとももの下にある膝の、さらに下にあるふくらはぎという場所がターゲットになります。確かに、鍛えにくい場所なのでダメージも与えられますよね。なるほど〜。
最初にこのカーフキックを編み出した人はすごいな、と思いますね。
朝倉海はなぜカーフキックを防御できなかったのか?
ただ、普通だったらですね、下に蹴りを出したら、スネでカットされます。だから出した相手は逆に痛い思いをするのが普通です。朝倉海選手はおそらく、脚にあまり意識してなかったのかもしれません。もしくは、構えがちょっと前傾の姿勢なのでそこがネックだったかも。
本職のキックボクサーは構えていてもすぐに脚を上げる体勢ができてますからね。でも、ボクサーとかタックルを狙うタイプのファイターは重心がちょっと前なんですよ。だから、脚を引けなかった。のかもしれません。まともに当たってるのを映像で観ると。
堀口恭司選手のキックも、かなり踏みこんで繰り出していますよね。普通に立っている人に、思い切りローキックを叩き込んでいる格好です。
途中から、朝倉海選手はよほどの痛みからか、前に出られなくなってましたね。カーフキックの3発目くらいからは脚は引き気味で、すると今度は自分のパンチが出せなくなる、というモードに突入してしまったんです。
2019年の前回の両者対決(RIZIN18)では、朝倉海選手が右ストレートで堀口恭司選手からKO勝ちを奪っています。だから今回もそれを狙っていたのかもしれませんが…
カーフキックで計画が思い切り狂った!!のかもしれません。そうなると、めちゃくちゃ焦りが出てきますよね。
ところで!
このシンプルなカーフキックという名の蹴り技についてですが、実は30年前にその原型とも言える風景があります。
カーフキックって猪木のアリキックじゃん??つまりは…
それはなんと、アントニオ猪木さんがやっていた異種格闘技戦です。アリキックってカーフキックじゃないですか。
当時は珍しかったレスラー対ボクサーの戦い。あるいはレスラー対キックボクサーというような、まさしく異種の格闘技が交わる試みが新日本プロレスで行われていたんですよ。
試合に向けて、レスラーはパンチとキックをかわすための技術を磨きます。パンチ&キックを知り、覚えるということです。
パンチ、キック、組み、投げ。これらが複雑に繰り出される戦いは、当時のプロレスファンにとっては非常に異質なものでした。
結局、これはジャンケンポンみたいな結論になりますね。蹴りと蹴りで戦うのではなく、その瞬間瞬間でどれをはめれば相手に刺さるか、を探り合うゲームというか。相手がグーなら俺はパー、みたいな。
組技は相手と接触してから始まる技なので、触れた時にはまだダメージを与えられません。一方でボクシングのパンチは手の当たらない距離から始まって、触った瞬間にはダメージを与え終わっている、という形ですよね。
そして、一番遠い距離から始まるのがキックです。脚は身体の中で一番長いですからね。
だから、異種格闘技戦においてプロレスラーは、蹴りを出さないといけなくなったんです。有利に戦うために。
レスラーがキックの選手と戦う場合、一度蹴らせてから捕まえるのか、こっちが一回蹴ってから掴むのか、など戦術を開発していた感じですね。当時。
そんなことをマット界がやっているうちに彗星の如く現れたのが、ホイス・グレイシーのグレイシー柔術です。アルティメット大会。第一回のUFCです。
ホイス・グレイシーがキック専門のジェラルド・ゴルドーを打ち破って優勝したのは衝撃的でした。蹴りも当たらない遠い間合いから前足を上げる独特な姿勢で立ち、打撃を誘いながら、相手がキックを打ってきたら突進、組んで相手を倒す。そこから殴り、ひっくり返してチョークで仕留める。鮮やかという言葉では表現できないくらいの手際の良さに驚愕したものです。
ここでみんな気づいたわけです。あっ、全部使いこなせばいいんだ!と。俺は何何専門、ではなく、全部に対応できるファイターになる、と。これが総合格闘技に人類がたどり着いたヒストリーなんです!
そもそもグレイシーは護身術として存在していました。グレイシー一族が実際に実戦を重ねて(!)編み出されたものですから、確実な技だけを体系化しています。
今は、このグレイシー柔術の映像を世界中の格闘家達がガッチリと研究し尽くしていますので、その集大成が今のMMAで見られるということになります。
[the_ad id=”243″]カーフキックは今後防御&攻略されるのか否か
今回のカーフキックは、MMAが進化する途中でポッと目立つ技として大晦日に出てきたわけなんですけど、堀口恭司選手が、蹴りに疎い朝倉海選手の隙を突いて、本職のキックボクサーだったらカットするであろうムーブを上手く決めた、ということです。この『隙』を見つけたのはひょっとしたら堀口恭司選手自身ではなく、周囲にいる研究要員のスタッフかもしれません。
今回の試合で、朝倉海に勝つならふくらはぎを壊す。
この結論に至るまで相当な分析をしたか、まぐれでハマったのか。どっちなんでしょうね。
この風景を見て、異種格闘技戦で異なるジャンルの相手と戦う時に研究を始めたレスラー達の姿と重ねてイメージしてしまうんですね。
結論を言うと、
今回のカーフキックは突然出てきた凄い技ではなく、隙のあった朝倉海選手にだから通用するシンプルな蹴り技、と見た方がいいでしょう。そして、この両者の再戦の時には、もう使われません。多分、すぐに対策できる技のはずです。防御可能。
ボクサータイプの立ち技オンリーの選手に通用しやすく、一瞬は流行るけど、そのうち通用しなくなる、と。グレイシーのタックルがもう通用しないのと同じです。
ここまで書いてみて、野球を思い出しました。ヤクルトのボブ・ホーナーや巨人の呂明賜を。最初はガンガン打ってたんだけど、そのうち分析、研究されて上手く討ち取られてしまったという。
今日は、そんなところです。